LCDバックライト用インバータの最新動向と
調相結合トランス型インバータ


本稿で紹介している技術はは小型液晶用バックライト用インバータ回路に関するものです。
大型液晶テレビ用バックライトのインバータ回路に関する技術についてはZAULaSをご参照下さい。→
CCFLインバータ技術は常に変化します。ここで紹介している技術は既に過去のものとなっており、最新のCCFL照明用のインバータ技術に関してはこちらをご参照ください→
本稿で説明する調相結合トランスの原理はワイヤレス電力伝送(ワイヤレス給電、非接触給電)の原理に直結するものです。原理を理解して実際の開発にお役立てください。
Advanced MRとは何か→新規事業研究会第262回 月例研究会

1.はじめに


写真1  コネクタ部よりも薄い巻線型の
調相結合型インバータ
液晶バックライトの蛍光管の駆動に使われているCCFL用インバータは小型で高効率なものが求められている。このインバータには大きく分けて巻線型と圧電型(圧電トランス/インバータ)がある。
圧電型(圧電インバータ)は、一時期、巻線型に比べて小型、高効率な方式として注目されていたが、巻線型にも調相結合トランス型インバータという技術が登場し、ここ数年、インバータの形状面及び性能面を比べても巻線型と圧電型では、大きな差異はみられなくなってきた(写真1)。
さらに、最近になって巻線型である調相結合トランスの駆動に他励共振型及びゼロ電流スイッチングON型(ZCS-ON型)という新しい駆動方式(以下、新回路方式)が登場した。

写真2 従来型インバータ(下)と
新回路方式のインバータ(上)
他励共振型やゼロ電流スイッチングON型の駆動方式はもともと圧電型の駆動方法として開発され、一時は検討されたノウハウであったが諸事情(安定性やバラツキ,tolerance)の問題があり、実用には至らなかった。新回路方式では、この技術を巻線型の調相結合トランスの駆動方法に利用することにより、巻線型でありながら圧電型を超える小型で高効率化されたインバータを実現している。
これまで他励共振型回路やゼロ電流スイッチングON型回路では回路が複雑になるところから敬遠されていたが、専用ICの登場によって回路もシンプルになり、小型化と高効率化に優れることから、新回路方式の巻線型インバータが今後の主流になる勢いを見せている。
新回路方式のインバータでは、従来の方式(DC-DCコンバータ+コレクタ共振型回路)では必要不可欠であったチョークコイルは使われていない。
従来型の回路方式はDC-DCコンバータにコレクタ共振型回路を組み合わせたものであるが、この回路はトランスの一次巻線に与える正弦波を発生させるために、必ずチョークコイルを必要としていた。

これに対し、新回路方式ではトランスが持っている漏れインダクタンスを巧妙に利用することによりチョークコイルを不要にし、その結果インバータ回路の小型化が図られている。
ところで、ここで使われている調相結合トランスは漏れインダクタンスが大きいトランスであり、従来の密結合トランスとは異なる原理によって巻線間の結合を確保しているものである。(注:調相結合トランスの詳細については3項で後述

2.  コレクタ共振型インバータ回路と新回路方式インバータ回路
2.1  従来型回路方式(コレクタ共振型)及び新回路方式(他励共振型、ZCS-ON型電流共振)の回路例

写真2は従来型のインバータ回路(写真下側)とし新回路方式のチョークコイルレス方式のインバータ(写真上側)を比較したものである。同じ電力を変換できるインバータ回路同士で比較すれば、新回路方式はチョークコイルがない分、形状面において完全に圧電型を上回る小型化が図られている。


図 1 一般的なコレクタ共振型回路
コレクタ共振型回路の一般的な回路構成は図1のように、前段にDC-DCコンバータ、後段にコレクタ共振型インバータ回路を持つ二段構成になっている。しかしこれは言うなれば電力の変換が二回行われるわけであるから、その分必然的に変換ロスは多くなると言える。
これに対し、他励共振型やZCS-ON型電流共振などの新回路方式ではインバータの回路構成が一段になっており、回路がシンプルになっている上に、変換ロスが少ないという非常に優れた特徴がある(図2、3)。


図2 他励共振型回路例(O2Micro
1)


図3 ZCS-ON型電流共振回路例(MPS)2)

2.2 他励共振型及びZCS-ON型電流共振駆動方式の動作原理


図 4 双安定スナバー回路 (1993年)
図4に他例共振型回路の一例を示すが、新回路方式インバータ回路では、共振回路がトランスの二次巻線側にあることが特徴となっている。3)
この共振回路は、調相結合トランスの二次巻線から発生する漏れインダクタンスと、トランスの巻線及び液晶バックライトの寄生容量(補助容量含む)とで構成されるものである。
したがって、新回路方式ではトランスの漏れインダクタンスや液晶バックライトの寄生容量の値共振のための重要なパラメータとなってくる。

図 5 コレクタ共振型回路の電圧波形 
4)
図5は従来のコレクタ共振型回路の、各部の電圧波形である。
コレクタ共振型回路ではトランスの一次巻線に与える正弦波を発生させるために、チョークコイルが不可欠となっている。
これに対し、新回路方式の各部の電圧波形と電流波形を見ると(図2,3,4)、新回路方式ではトランスの一次巻線から矩形波状の電圧を加えているが、二次側の共振回路の働きによって出力電流波形が正弦波状として出力されている。
図4のように、他励型というのは一次側の駆動回路に発振回路があり、この回路の駆動周波数が周波数固定式になっているものをいうが、図2の例ではC4とR2によって駆動回路の発振周波数を決めている。

この他励共振型回路における最適な駆動周波数を求めるには、実際に液晶バックライトを点灯した状態における二次側の共振周波数やインピーダンス特性がどうなっているかを測定する必要がある。

二次側の共振周波数やインピーダンス特性は、図6の測定装置を用いてGAIN-PHASE特性を調べることによって求められる。(本装置と同じものがNF回路設計ブロックより発売されることになりました)


図 6 二次側共振特性測定装置

この装置では、今まで難しいとされていた液晶バックライトを点灯させた状態での、液晶のバックライトに存在する寄生容量と調相結合トランスの二次側から生じる漏れインダクタンスとの共振とインピーダンスとの関係が視覚的にわかるため、最適な駆動周波数を簡単に求められる。
(図6で使われるトランスT1は他励共振型インバータ回路に使われるトランスをそのまま使って測定する)
他励共振型駆動方式では駆動周波数を自由に選べるので、このようにして求めた理想的な周波数で駆動することによって、コア及び巻線からの発熱を劇的に少なくでき、インバータの変換効率を飛躍的に高めることができるようになる。

一方、他励共振型では、今まで規格化されてこなかった液晶バックライトの寄生容量の違いによって二次側共振周波数が大きく影響を受けるようになるので、液晶モジュールのインチサイズやメーカーごとに異なる寄生容量の違いを綿密に管理することが重要になってくる。

2.3. コレクタ共振型回路による駆動

ところで、コレクタ共振型回路を用いて、この最適周波数で駆動することができるかというと、答は否である。理由は以下に示す。

図7,8はコレクタ共振型回路の場合の、トランスの一次巻線側から見たインピーダンス特性である。(注:図7で測定したものと、サンプルが異なるで、周波数軸が違っており、注意。)

コレクタ共振型回路は電圧共振自励型というもので、一次側に共振コンデンサがあり、これと一次巻線のインダクタンスとが電圧共振を起こす。そして、二次側にもトランスの漏れインダクタンスと寄生容量による共振回路があり、これら二つの共振周波数が干渉しあうために、一次側から見たインピーダンス特性は複雑なものになっている。(図8)

図 7 二つの共振回路

図 8 コレクタ共振型回路の一次側から見た
インピーダンス例
コレクタ共振型回路の発振周波数がどのように決まるかというと、この図で、位相がちょうど0degreeになる点が発振周波数になるのである。
この付近の位相を見てみると右下がりになっており、仮に何らかの理由で発振周波数が高くなると、ベース巻線に帰還する位相が遅れ、周波数が低いほうにずれる。逆に何らかの理由で周波数が低くなると位相が進み、周波数が高いほうにずれる。
このようにして、コレクタ共振型回路の発振周波数は位相のゼロ点に落ち着こうとするのである。

ここで、コレクタ共振型回路の共振コンデンサを調整して、先ほどの図6の装置で求めたような二次側の共振周波数付近で発振させることができるかどうか検討する。


図 9 共振周波数付近の位相特性
この付近の位相特性を良く見ると、図9のように右上がりになっていることがわかる。仮にコレクタ共振コンデンサを調整して、この右上がりポイントの周波数に合わせたとする。すると、何らかの理由で周波数が高い方にずれた場合、位相は進むので周波数はもっと高い方にずれようとする。
逆に何らかの理由で周波数が低い方にずれた場合、位相は遅れるので今度はもっと低い方にずれようとする。

このような原理から、コレクタ共振型回路ではどうしてもこの理想ポイント付近でなんとか発振させることはできても、理想ポイントの真上では発振することができず、理想ポイントを少し外れた高い周波数か低い周波数でしか発振することができないという致命的な問題を抱えていることになる。これに比べて発振周波数を強制的に最も効率の良い理想ポイントに定めることのできる他励共振型の方がなにかと都合が良いのである。

2.4. 他励共振型ではハイ・パワーが出せる


図 10 入力電圧と管電流
図6の共振周波数特性測定装置で、今度は二次側のLCDパネルのCFL(冷陰極管)に流れる管電流と一次巻線に加えられる電圧のリファレンスを取ったものが図10である。
比較のために入力電圧と入力電流のリファレンスのGAINも測定し同じ図に移動した。

図10はトランスの入力電圧に比較して、どれだけの管電流が出ているかを示している。最適駆動周波数では、同じ入力電圧に対して、コレクタ共振型回路での場合と比較して、2倍以上の管電流が得られていることになる。

これは、他励共振型によって駆動すると同じ形状のトランスを用いても、コレクタ共振型回路に比べて2倍以上の電力変換ができることを証明するものである。(実際には4倍程度まで実現でき、実用化されている。)


3.調相結合トランスについて(=ワイヤレス電力伝送の原理)

次に、巻線型インバータにおいて画期的な小型化をもたらした調相結合トランス(写真3)について述べる。5)


写真3  調相結合トランス掲載のインバータと
従来トランスとの比較
トランス寸法比で1/3以下を実現
(1994年)
3.1. 調相結合トランスとは

調相結合トランスというと聞きなれない言葉であるが、これは1992年トランスの新しい動作原理を発見した弊社が提唱した理論に基づき、その後、通産省の平成8年度補助研究事業6)として集中的な研究が行われた際に通産局の技官によって新たに命名された呼称である。

そしてこの研究により、トランスの性質として従来の閉磁路型トランスの結合原理と異なる結合原理が存在することについて、長年見落とされてきた現象があり、それが電力変換にも応用できるものだということが正式に認められることとなった。

調相結合トランスは漏れインダクタンスを利用した共振変圧器の一種であり、大きな漏れインダクタンスを有し、また、二次巻線上に進行波が発生し、密結合と疎結合とが発生するというものである。

尚、現在この調相結合トランスを用いた新動作原理インバータ回路は世界各国で特許を取得し幅広く製品化されている。3)

3.2. 調相結合トランスの動作原理


図11 磁束の引き込み効果
従来、トランスは磁束の通り道(磁路)を閉塞させることによって、一次巻線と二次巻線との結合を確保しようとするものであったが、調相結合トランスでは二次側に容量性の負荷を持たせ、この容量成分とトランスの二次巻線から生じる漏れインダクタンス成分とを共振させることによって高い結合効果を得ている。

これは、磁束の引き込み効果といい、図11のような磁路の両側を開放したようなトランスや扁平に変形させたトランスでも角型閉磁路トランスに匹敵する結合効果が得られるというものである。

次に、調相結合トランスにおいて、なぜ実用的な結合効果が得られているのかということについて、その原理を示す。



図 12 磁束と電流位相
調相結合トランスの一次巻線に加えられる電圧をE1とし、一次巻線に流れる電流をI1とする。また、I1によって一次巻線直下に発生する磁束をφ1とする。(図12)

@ 同様に、二次巻線に誘起される電圧をE2とし、二次巻線につながれた負荷によって流れる電流をI2とする。また、このI2によって二次巻線直下に発生する磁束をφ2とする。
A トランスの一次巻線は誘導性であるからE1によって流れる電流I1の位相はE1の位相よりも90°遅れる。
B I1によってコアに生じる磁束φ1はI1に比例するのでφ1とI1の位相は同じである。
C φ1が二次巻線に誘起する電圧E2はφ1よりも90°遅れる。この結果、E1とE2は逆位相になる。
D ここで、二次巻線に容量性の負荷がつながれている場合、二次巻線に流れる電流I2はE2に対して位相が90°進む。
E I2によって発生する磁束φ2の位相はI2と同じなのでφ2の位相はE2に対して90°進んでいることになる。
F この結果、φ1の位相とφ2の位相は等しいということがわかるが、この場合は一次巻線で発生した磁束が連続したコアを伝わって全て二次巻線に引き込まれていることを示している。

結論として、一次巻線を通過する磁束と二次巻線を通過する磁束の数はほとんど等しくなり、それは、一次巻線と二次巻線間の結合は非常に高いということを意味するものである。

図 13 φ1,φ2の位相が揃う
このように、一次巻線下の磁気位相φ1と二次巻線下の磁気位相φ2が足並みを揃える(調相する)ことによって高い結合効果を得ているのが調相結合トランスの原理である。(図13)
この原理はワイヤレス電力伝送-非接触給電-非接触電力伝送-ワイヤレス給電でもそのまま同じ原理で説明することができる。)
補足であるが、調相結合トランスの二次巻線に抵抗性の負荷がつながれた場合、調相結合の関係は崩れないのかと心配するが、容量に流れる電流の位相と抵抗に流れる電流の位相は90°異なっているわけであるから全く干渉しないのである

調相結合トランスの場合、二次巻線側に必要な容量成分は二次巻線を巻くことによって生じる巻線間寄生容量と、液晶バックライトに存在する寄生容量を巧妙に利用している。

なお、共振周波数の条件が合わない場合などは、液晶バックライトに並列や直列に調整用のコンデンサを付加することによっても共振周波数を調整することができる。

3.3. いろいろな形の調相結合トランス


写真4 いろいろな形の調相結合トランス
写真4にいろいろな調相結合トランスの例を示す。液晶バックライト用インバータに使われる調相結合トランスには薄型のものが求められるため、本来のトランスの形状から比べると細長いものや、非常に薄いものなど、従来の閉磁路型のトランスに比べると、極端に変形されたものが多い。これは比較的大きな漏れインダクタンスを持たせてそれを利用するためである。
(一次巻線と二次巻線とを分離すると、そのままワイヤレス電力伝送になる)

図14  従来型トランス(@〜A)と
調相結合トランス(B〜E)
閉磁路型トランスは元来、図14の@やAの形状でないと実用上十分な結合効果(結合係数)を得ることができないと言われている。

B〜Eような変形トランスは、一見閉磁路型の形状を保っているように見えるが、実際に製作してみると、磁束の漏れが多く、大きな漏れインダクタンスが測定される。このようなトランスは、従来の閉磁路結合によって密結合を得ようとしても、実用的な結合が得られなくなってしまうのである。

そこで、このようなトランスにおいても二次巻線の巻き方を調整し、適当な漏れインダクタンスを持たせ、液晶バックライトの持つ寄生容量と共振させることによって調相結合を起こさせると実用的な結合効果を得ることができる。

このため、磁束の通り道を開放してしまったような極端な開磁路型や、極端な細型・薄型形状のトランスでも実用的なインバータを作ることができるようになったのである。

(二次側の共振Q値を高くすると、そのままワイヤレス電力伝送になる)
4.おわりに

他励共振型駆動方式と調相結合型トランス(共振変圧器)との組み合わせは非常に適合性の良いものであり、調相結合型トランスの性能を十分に引き出すものであることは理解されたかと思う。

図 15 寄生容量の発生
7)
これらの技術の組み合わせにより画期的なインバータが実現されたことから、今後は他の種類のインバータにおいてもこの技術が適用され、応用範囲はさらに拡大していくものと思われる。

尚、今回は紙面都合上、新回路方式の動作において重要な意味を持つ液晶バックライトの寄生容量について述べることはできなかったが、機会があればこれらの問題についても触れてみたいと思う。
(この寄生容量もワイヤレス電力伝送の共振器-Resonatorに関係する話につながる)

参考文献

1) O2Micro 製品カタログ1998年11月
2) Monolithic Power System.Inc. 製品カタログ 1999年2月
3) 牛嶋昌和、特許公報 第2733817号 平成10年1月9日、USP 5495405 Feb.27.1996、? EP 0647086 B1 26.08.98、 中華民国専利 発明第096018号、 DE 694 12742 T2
4) 牛嶋昌和:電子技術、Vol38、No7、P49、(1996)
5) 牛嶋昌和,舟木剛:電気学会半導体電力変換研究会SPC-97-3 1月(1997)
6) 潟eクノリウム:平成8年度通産省関東通産局技術改善費補助金交付補助事業研究結果発表 「調相結合トランスを応用した熱陰極蛍光灯用インバータに関する研究」 平成9年5月
7) 日本工業技術センター「液晶バックライト・インバータの設計法」セミナー用テキスト 5月(1997)

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