平成14年(ネ)第6167号

 

控訴人第三準備書面

 

 

控訴人  株式会社テクノリウム

被控訴人 富士電機イー・アイ・シー株式会社

 上記当事者間の標記特許権侵害差止等請求控訴事件につき、控訴人は下記のとおり陳述を準備する。

 

       平成15年6月6

 

東京高等裁判所 第3民事部 御中

控訴人訴訟代理人 弁護士 中島 敏

同 補佐人    弁理士 飯田 伸行

 

 

 

 


 

1.     最高裁判所判例違反について

原判決はH03.03.08 第二小法廷・判決 昭和62(行ツ)3 審決取消事件、いわゆるリパーゼ判決に違反または不整合を起こす。

以下詳細に説明する。

(1)リパーゼ判決について

本件は拒絶査定を支持した特許庁の審決を不服とした審決取り消し訴訟に係るものであり、

「特許法29条1項及び2項所定の特許要件、すなわち、特許出願に係る発明の新規性及び進歩性について審理するに当っては、この発明を同条1項各号所定の発明と対比する前提として、特許出願に係る発明の要旨が認定されなければならないところ、この要旨認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。

特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。

このことは、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨定めている特許法36条4項2号の規定(本件特許出願については、昭和50年法律第46号による改正前の特許法第36条5項の規定)からみて明らかである。」

としたものである。

(2)原判決との比較

原判決では、「ア 本件明細書の記載

   本件明細書の「特許請求の範囲」欄には,「連続した一本の棒状コア(略)を有し」と記載され,「昇圧トランス」に「一本の棒状コア」を組みあわせの構成の一つとして含んでいれば足りるのか,「棒状コア」のみを構成とするものでなければならないかは,その記載からは直ちに明かであるとはいえない。そこで,本件明細書のその他の部分の記載を参照する。」

とし、明細書の記載を参酌し、

() 発明が解決しようとする課題の欄に,「また,従来の放電管用インバーター回路ではコアにEI型或いはEE型の形状を採用しているが,該コア形状ではコアの体積がそのインバーター回路全体に占める割合が大きく,その回路の小型化の障害となっている。しかし,閉塞磁束型のトランス構造を採用する限り,昇圧トランスの小型化には限界がある。そこで,コア形状と磁気回路を見直すことによって昇圧トランスの小型化を実現する必要がある。」と記載されている(本件明細書4欄17ないし24行)。」、

という記述を参酌して、

「本件発明の構成要件Aにおける「連続した一本の棒状コア」とは,連続した一本の棒状コアのみからなるものを意味し,棒状のコアの周辺等に磁路を形成するコアを設けたものを含まないと解すべきである。」

との判断を導いた。

 

本件の場合、「連続した一本の棒状コア」という構成要件の文言については明らかに一義的明確な物体を指し示し、その物体に対する認識が当事者それぞれにおいて異なるものでもないことはこれもまた明らかである。

なぜならば原判決においても、「「一本の棒状コア」を組みあわせの構成の一つとして含んでいれば足りるのか」と述べているのであるから、裁判官においてもその物体のなんたるかについては構成要件の一つとして一義的に疑問なく認識していることは明白である。

他の良くある例のように対象となる構成要件の技術的意義が一義的に認識できず不明確であるために明細書の参酌が必要になったケースとは明らかに異なる。

この論理構成はそのままリパーゼ判決に宛てはまる。

即ち、リパーゼ判決では請求項に「リパーゼ」とのみ記載されているが、明細書を参酌するとRaリパーゼについて記述されているのであるから、明細書を参酌して請求項の「リパーゼ」はRaリパーゼのみを意味するとして限定した原判決を破棄したが、本件の「リパーゼ」を連続した「一本の棒状コア」、「Raリパーゼのみ」に限定、を「連続した一本の棒状コアのみ」に限定、と置き換えればそのまま最高裁判例が適用される。

したがって、原判決は破棄されなければならない。

或いは、「連続した一本の棒状コア」は構成要件として「のみ」であることを必須とするか否かは問うことは許されず、充足されているものとしなければならない。

その結果、本件の場合には作用・効果を詳細に参酌しなければならないものであり、具体的に明細書に記載された作用・効果とを参酌して「連続した一本の棒状コア」を解釈するのであれば、付加物である外部O型コアがないことは、は本件作用・効果の生成にとっては必ずしも必須の事項ではないことが明らかとなるために、原判決の判断は異なったものにならざるを得ない。

したがって、「その余の点を判断するまでもなく」とした原判決は審議未了であることを明白にしているので関連法にも違反することは明らかである。

参考までに同リパーゼにおいて、後々になって技術革新が進み、出願時には予想されていなかった新たなリパーゼ誘導体が工業的に生産可能となり、これにより侵害事件が発生した場合を想定すると、リパーゼ判決の意味するところはそれを請求項解釈で判断してはならないと示唆しているものである。

工業的に未発達な段階において、請求項の限定解釈により技術範囲を限定してしまえば、発明者はその後の工業的発展に伴う侵害事件に対する権利主張の機会を失う。

即ち請求項の限定的解釈はその時代における工業技術の可能性の範囲に基づいて行うべきでなく、後に侵害事件が発生し、Raリパーゼのみなのかリパーゼ全てを含むのかは、個々のリパーゼ誘導体における侵害事件ごとに明細書の作用・効果を参酌するまで確定的な判断を保留できなければならない。

即ち、侵害となるリパーゼ誘導体なのか、侵害とならないリパーゼ誘導体なのかは明細書の参酌によって技術的意義を詳査した上で、個々のケースで個別に判断できるようにしなければならないものである。

この場合、作用・効果が一致すれば均等論としての考え方を援用すべきであり、一方、作用・効果が一致しなければ個別のケースとして非侵害を判断すれば済むことなのである。

 

(3)リパーゼ判決以前と平成6年特許法改正

工業所有権法の解説(工業所有権制度改正審議室編)から抜粋すると、リパーゼ判決の解釈を巡り、

「@ 特段の事情のない限り、用語の意味の明確化という目的であっても発明の詳細な説明や図面の参酌は許されないとし、これまでの判決の考え方とは異なるものであるとする考え方」

「A 判旨の真の意味は語義の明確化などのために、原則的に発明の詳細な説明の参酌が許されるとの前提に立った上で、クレームに記載された技術的事項が、それ自体として明確に把握できる場合には、それ以上に限定するような仕方で発明の詳細な説明を参酌することは許されない。また、発明の詳細な説明に記載があってもクレームに記載されてないものは記載にないものとして取り扱うべきというものであるとする考え方」

という二つの解釈が対立していたことが述べられている。

即ちリパーゼ判決以前には、請求項解釈において、いかなるケースにおいても発明の詳細な説明や図面の参酌して解釈することは許されないのか、或いはいかなるケースでも参酌して解釈することが許されるのかの意見対立に対して、「クレームに記載された技術的事項が、それ自体として明確に把握できる場合には、それ以上に限定するような仕方で発明の詳細な説明を参酌することは許されない。」

と、明細書の参酌に一定の基準を設けたことがその趣旨である。

また、これを受けて、工業所有権審議会答申では、上記A示す考え方を確定的に規定するとの認識の下に、特許法第70条において、「クレームの記載は、発明の詳細な説明及び図面の記載を参酌して解釈される」旨を規定する方向で検討することが適当であるとされた。

その結果、特許法第70条は、

「2.前項の場合においては、願書に添付した明細書の特許請求の範囲以外の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。

3.前二項の場合においては、願書に添付した要約書の記載を考慮してはならない。」

と改正されたものである。

なお、この改正にあたり、工業所有権法の解説(工業所有権制度改正審議室編)にはさらに次のように述べられている。

「また、本項は、特許請求の範囲に記載された個々の用語の意義の解釈について規定したものであるから、この規定により、イ)特許発明の技術的範囲を発明の詳細な説明中に記載された実施例に限定して解釈することや、ロ)発明の詳細な説明に記載されているが特許請求の範囲には記載されていない事項を特許請求の範囲に記載されているものとして解釈することが容認されるものではないことは言うまでもない。」

即ち、「特許発明の技術的範囲を発明の詳細な説明中に記載された実施例に限定して解釈すること」はあってはならないのであるが、原判決では、「() (なお,実施例の欄には,「昇圧トランス1を極端な漏洩磁束型とした場合の外形を示しており,昇圧トランス1は円柱状の形状としてある。その他,角柱状などに形成することもできる。丸棒状コア11の一方の終端に昇圧トランス1のベース巻線12を巻き,隣接して一次巻線であるコレクター巻線13を巻く。さらに,その隣に巻く二次巻線14は,一次巻線の近傍15より巻き始め」と(本件明細書5欄50行ないし6欄6行),「昇圧トランス1の形状は直径4.8mm,長さ35mmとなり,従来のEE型或いはEI型のコアの昇圧トランスを用いた同仕様のインバーター回路に比べて非常に小型なものとなる。また,昇圧トランスの組立は,巻線後ボビンに丸棒状コア11を挿入するだけなので量産上も有利な形状となる。」と(本件明細書6欄20ないし25行目),それぞれ記載されている。)」と、実施例を参酌し、「連続した一本の棒状コアのみ」の判断を得ようとした。

即ち、原判決では明らかに、あってはならないはずの実施例に基づいて本件特許の技術的な趣旨を「棒状コアのみ」であるとの心証を形成しており、審査基準に照らし合わせて不当である。

したがって、実施例から請求項を限定するような心証を得たとすれば、それは判断において積極的に排除されなければならないものである。

 

(4)審査基準と裁判所判断との整合性について

リパーゼ判決は審決取り消し訴訟に係る判決であるところから、ただちに侵害判断には適用できないとの議論もあるが、この場合には論点は、特許庁審査基準と裁判所判断との整合性に移る。

原判決は請求項の構成要件を「連続した一本の棒状コア」を「棒状コアのみ」であることを必須であると判断した。

即ち、原判決のまま確定すれば、本件の特許発明の請求項は「連続した一本の棒状コアのみ」と確定し、法的な効力が発生する。

したがって、原判決は請求項の構成要件に「連続した一本の棒状コア」にさらに「のみを有する」という構成要件を付加して限定するように補正したものと見なせる。

ところで、このような請求項の限定は特許庁による無効審判において、申立て人がそのように申し立て、審判において「のみ」への補正が認められた場合には全く同様の効力が発生するものである。

即ち、特許庁審判と裁判所判断とが同じ効力を有する手続きにおいて重複している典型例であるとも言える。

このような手続きの重複が積極的に容認されるべきか、役割の分担を明確化するべきかは、まさに今行われている特許及び裁判制度改正の重要な論点でもある。

ここで、手続きの重複が容認されるとの前提に立った上で論じた場合、特許庁における審査基準と裁判所判断との間に不整合は容認されるかという議論がある。

特許庁審判或いは審査基準と裁判所判断とは互いに独立した関係ではあるが、補正審判或いは無効審判と同様の効力を有する判断を裁判所が行えるとしたならば、双方の基準の間に厳格な整合性が必要なのか、全く整合性を有しなくても良いのかと言えば、少なくとも全く整合性がなくても良いということにはならない。

次に、どのような整合性が必要であるかといえば、そもそも発明者は発明を特許とするために最初に接触する特許庁の審査基準に合わせて明細書を記載するものである。

仮にそのようにして特許とされた発明が、侵害訴訟の段階になって、裁判所において異なる基準で運用されるとするならば発明者にとっては極めて信義側に反する状況に置かれてしまうことになる。

即ち、基本的には特許庁審査基準・審判と裁判所判断との間には相当な整合性が必要とされることは明らかである。

次に、整合性は必須であるとして、特許庁における審判等具体的手続きにおいて動員される審判官の専門的知識、或いは合議体と同様の機能を裁判所が有するかと言えば、現時点において特許庁と同一機能を有する機構は裁判所には設置されていない。

これこそが米国などにおけるシニア裁判官とスペシャリストで構成される連邦裁の機構そのものであり、現在日本においても同様のシステムを導入すべく検討が行われている最中である。

したがって、現時点において裁判所が特許庁審判同様の効力を有する判断を行うためには性急な判断で正確な結論を導き出すのは不可能と言わざるを得ず、スペシャリストによる鑑定等の資料を十分に揃え、時間をかけて緻密な審議を行わざるを得ない。

少なくとも原判決は、「その余を判断するまでもなく」としてしまったので、特許庁審査基準・審判等との整合性を放棄したものであることは明らかであり、審議未了で違法性を含むものであることは間違いない。

 

(5)特許庁における審査基準

参考までに、特許庁における審査基準は以下のとおりである。

「 (参考)審査における発明の詳細な説明の参酌

上記の点を踏まえるとともに、リパーゼ判決の趣旨に鑑み、平成5年6月の改定審査基準では、審査における特許出願に係る発明の認定は、今回改定された第70条2項と同様の認識の下に、次のように行うよう規定されている。

@ 請求項の記載が明確である場合には、請求項の記載どおりに認定する。

A 請求項に規定された用語の意味内容が発明の詳細な説明において定義または説明されているか、又は、請求項の記載が明確でなく理解が困難であるがそれが発明の詳細な説明において明確にされている場合は、これらの用語、記載を解釈するにあたって発明の詳細な説明の記載を参酌する。」工業所有権法の解説(工業所有権制度改正審議室編)

即ち、この審査基準は極めて単純明確であり、裁判所の判断基準としても解釈を異にするべき理由は何も見当たらないものと思われる。

 

(6)特許庁審査基準と原判決との対比

原判決では「連続した一本の棒状コア」という文言が何を示すか不明としたものではない。

「連続した一本の棒状コア」は「中心コア2」として明確に認識し、「外部コア3」が付加物であるかを検証している。

即ち、「中心コア2」が何であるかが不明確なためそのものの意味が掴めずに明細書の記載を参酌せざるを得ないケースと明らかに異なるものである。

したがって、原判決は一義的に明快な「連続した一本の棒状コア」を非充足としてはならない。

仮に、このように一義的に明快な構成要件すら不明確として明細書の記載を参酌することができるとするならば、請求項はもはや請求項としての機能を失い、明細書の要約にしか過ぎないものになってしまう。

これは、特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない旨定めている特許法三六条五項二号の規定の趣旨に反するものである。

 

(7)発明者による侵害の予見性

発明者が将来の侵害の形態を予見して明細書に予め争いのないように記載することは発明者の努力事項として推奨されるものである。

しかし、義務というまでには至らない。

なぜならば、発明者は予言者ではないのであるから、将来のあらゆる侵害形態の全てを予想して明細書に予め記載することは不可能だからである。

このような侵害予見性について、均等論判決では、

「けだし、(一)特許出願の際に将来のあらゆる侵害態様を予想して明細書の特許請求の範囲を記載することは極めて困難であり、相手方において特許請求の範囲に記載された構成の一部を特許出願後に明らかとなった物質・技術等に置き換えることによって、特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば、社会一般の発明への意欲を減殺することとなり、発明の保護、奨励を通じて産業の発達に寄与するという特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとる結果となるのであって」、

と述べられるように、発明者による侵害予見性への配慮を大幅に緩和している。

また、一般にはあまり議論されていないが、リパーゼ判決においても発明者の認識として次のような点が原審で主張され、リパーゼ判決において否定されている。

「2 本願明細書の(4)の記載によれば、本願発明の発明者は、Raリパーゼ以外のリパーゼはRaリパーゼのように許容される時間内にトリグリセリドを完全に分解する能力がなく、遊離グリセリンによるトリグリセリドの測定には不適当であると認識しているものと認められるから、発明者が、右のようなトリグリセリド測定に不適当なリパーゼをも含める意味で本願発明の特許請求の範囲中の基本構成に広く「リパーゼ」と記載したものと解することはできない。」

と、原審では認識限度論を述べている。

即ち、発明者の侵害予見性としてRaリパーゼ以外では効果がないと認識しているのであるから、それ以外のリパーゼに特許の効力が及ぶとすべきではない、とされたものである。

しかし、リパーゼ判決では認識限度論は全く参酌されずに原審の判断は否定されている。

本件に当てはめれば、原判決では明確には述べていないものの、実施例の図面を参酌したところから推測して原判決は認識限度論に基づいて心証を形成した可能性は否定できない。

仮に認識限度論に基づいていたとするならば発明者にも十分な釈明の機会が与えられるべきである。

なぜならば、本件特許出願当時の認識、及び審査基準として、特許法三六条五項二号の規定には、「特許請求の範囲には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない」旨が定めているものであり、「連続した一本の棒状コア」という構成要件の記載はまさに発明の構成に欠くことができない事項のみを記載したものであるからである。

一般にこのような一義的明快な構成要件について後に争いがあるなどとは発明者に予見不可能であり、仮にそのような点で争いがあると仮定しても、出願当時乃至現在に至るまでの審査基準に基づいて判断するならば、むしろ、発明の構成に欠くことができない事項以外の構成(具体的にはO型の外部コア等)は後の争いを防ぐために、請求項には記載するべきでないことを積極的に選択したと考えられる。

卑近に言えば、発明者としては特許の審査基準に基づいて争いなくするために記載した請求項を逆に争いの点として取り上げられ、特許審査基準と裁判所判断との間で翻弄され、社会システムに騙されたとまで感じているものであり、原判決のこのような判断は特許法の目的に反するばかりでなく、社会正義に反し、衡平の理念にもとるものと言わざるを得ないものである。

また、控訴人は原判決をインターネット上で公開したところ、多くの意見が寄せられ、原判決は請求項の一義的明確な構成要件をさらに限定解釈を加えた判断の典型例として、この原判決をもとに、より明快な請求項解釈基準を控訴審で求める要望が多く、また、工学的にも判断を誤った点が多々見られるところから、この点の判断を明確にすることは社会的な面からも意義の大きいものである。

 

2.     乙第17号証、透磁率及び乙第16号証磁束性状図面について

(1)原判決の事実誤認

原判決では「被告製品との対比」について、「外部補助コアの透磁率が空気の3000倍以上である」と判示したが、事実誤認である。

原判決は透磁率というものの基礎的知見において大きく見誤り、誤った概念に基づいて原判決の判断を導いた。

結論から言えば外部O型コアの透磁率はたかだか12倍、または、3倍程度に過ぎない。

以下、詳細に説明する。

原判決では、

() 被告製品における外部コアの透磁率は空気の3000倍以上であり,棒状の中心コアの周囲に外部コアを設けた場合,大部分の磁束は,空気中を通らず,コア材で作る磁気回路を流れてループ回路を形成するため,結果的に巻線間の磁気的結合係数が大きくなる。

 そうすると,被告製品における外部コア3は,中心コア2のまわりに巻回された巻線に発生した磁束について,中心コア2の周辺に磁路を形成する役割を果たしており,この外部コア3が存在することにより,コアが棒状の中心コアのみで構成されたトランスとは,異なる磁路が形成され,結果として磁束の漏洩の程度に影響を与えていると認められる。

したがって,被告製品における外部コア3が,中心コア2に対して,単なる付加的なものであるということはできない。」

 と判示した。

 しかし、原判決は透磁率というものについて誤った知見を持っている。

テキスト ボックス:  
図1

 透磁率というものは、コア材の僅かな切れ目でも大きな影響を受けるため、全く切れ目のない標準コア形状、具体的にはJISで制定されるリング状のコア(図1)に巻線を施し、測定するものであり、その測定結果が、コアのある状態と、ない状態においての比により算出する。

 このコアのない状態のインダクタンス値が、コアがある場合に何倍になるかが比透磁率(μiac)である。

 即ち、被控訴人製品のコア材の比透磁率μiacが測定用の標準コアにおいて3000倍以上であることを示しているに過ぎない。

 ところが、実際のトランスにおいては様々な理由によりこれほど理想的な透磁率は得られない。

 実際の透磁率はコアの形状や、コアとコアとが製造上の都合等によりギャップと呼ばれる空気層或いはごく薄いプラスチックのフィルムなどで分断される場合などにおいては大きく低下する。

 この実際の透磁率を実効透磁率と言い、計算によってある程度は求められるが通常は実測によって求められる。

 測定方法はコアの形状を実物で測定する他は比透磁率の測定法と基本的には同じである。

 一般に実効透磁率というものは、寸法形状が小さくなるにしたがって低下する。

これは、同じ割合で縮尺、即ち相似的に縮尺した場合、

(イ)断面積は縮尺比の自乗に比例し、

(ロ)磁路の長さは縮尺比の一乗に比例する、

のであるから、同じ形状のコアであっても縮尺すれば実効透磁率は低下するのである。

被控訴人製品のトランスは特に小型化が要求されるものであり、実行透磁率は相当に小さい。

 

(2)実際の透磁率(実効透磁率)

(イ)I型コアのみの場合の実効透磁率

被控訴人製品と同一形状のIO型コアを有するトランスは控訴人も製造販売している。もとを正せばこの製品を最初に基本設計をしたのは控訴人である。

被控訴人の製品のIO型コア形状のトランスはそもそも控訴人がIコアのみ(正確にはI型の外部コアを付加している)のトランスの特性を改善するために、Iコアのみ(正確にはI型の外部コアを付加している)を改良し、控訴人発明者自らがIO型コア形状の漏洩磁束型トランスとして設計し、漏れインダクタンスを調整して製品化したものである。

それが台湾でコピーされて被控訴人の製品に使用されているのであるから、もともと漏洩磁束型トランスであることは明らかであり、それを被控訴人が非漏洩磁束型であると主張することは極めて不遜であると言わざるを得ない。

これを測定した結果は以下のとおりである。

 

二次巻線励磁インダクタンス(即ち二次巻線自己インダクタンス)

I型コアなし

4.80mH

I型コア付き

105.9mH

 

ここから、I型コアのみの場合の実効透磁率が算出される。

即ち、I型コアの実効透磁率は22.06である。

 

(ロ)控訴人製品の外部O型コアの実効透磁率

 次に念のため、被控訴人の製品と比較するため、控訴人製品の外部O型コアの実効透磁率を実測する。

 

二次巻線励磁インダクタンス(即ち二次巻線自己インダクタンス)

I型コアのみ

105.9mH

外部O型コア付き

997mH

 

ここから、控訴人製品の外部O型コアの実効透磁率が算出される。

即ち、外部O型コアの実効透磁率は9.41である

 

(ハ)被控訴人製品の外部O型コアの実効透磁率

 同様に外部O型コアの実効透磁率を実測するのであるが、これは乙第17号証により、

10KHzにおける二次巻線励磁インダクタンスをもとに計算すれば

二次巻線励磁インダクタンス(即ち二次巻線自己インダクタンス)

I型コアなし

95.53mH

I型コア付き

1205mH

 

ここから、被控訴人の製品の外部O型コアの実効透磁率が算出される。

即ち、被控訴人の外部O型コアの実効透磁率は12.61である

(ロ)及び(ハ)を比較して、外部O型コアの実効透磁率はいずれも10内外であり、控訴人製品も被控訴人製品も非常に似通っていることがわかる。この数値からみても複製されたものであることは明らかである。

いずれにしても、外部O型コアの実効透磁率は3000倍という値には到底なり得ない。

 

(ニ)被控訴人製品60KHzにおける場合

参考までに、被控訴人製品を60kHzでも測定してみる。

そもそも、JIS C-5321に従えば、分布容量の影響を受けないように測定せよと記述されているのであるから、もとより、このように分布容量の影響を受けた周波数における測定値を取り上げることは論外である。しかしながら念のため計算すると以下のようになる、

 

60KHzにおける(見かけ上の)二次巻線励磁インダクタンスをもとに計算すれば

二次巻線励磁インダクタンス(即ち二次巻線自己インダクタンス)

I型コアなし

91.42mH

I型コア付き

2770mH

ここから、外部O型コアの実効透磁率は、

即ち、30.30と計算される。

外部O型コアの実効透磁率は3000倍という値には到底なり得ない。

 そもそも間違った測定法による間違った計算結果は意味がないものであるが、その間違った測定法に基づいたとしても実効透磁率は30倍そこそこであって、到底3000倍とは程遠いものである。

 このような測定法はJISの規定に反しており、厳密性を期すためには工業用品試験場において測定を委託すべきであった。

 このような測定は認められていないので、“励磁インダクタンス”として測定を受け入れてもらえるかどうか、被控訴人は試してみるべきである。

 

(ホ)実効透磁率測定のまとめ

即ち、外部O型コアの透磁率、即ち実効透磁率は12.61(被控訴人製品)であり、「空気よりも3000倍も(磁束が)通りやすい」とした原判決は明らかに誤りであり事実誤認である。

     原判決は、「空気よりもたかだか12.61倍程度(磁束が)通りやすい」と書き直された上で、その知見に基づいて判断全体が見直されなければならない。

 

(3)実効透磁率が12.61倍であることの意味

外部補助コアの実効透磁率、即ち磁束の通りやすさが3000倍ではなく、たかだか12.61倍であるとするならば、判断は大幅に影響されるであろう。

実際にトランスの設計・製造において12.61倍の変化というものは大したものではない。

例えば、トランスの自己インダクタンスは巻数の自乗に比例するが、自己インダクタンスを12.61倍にしたければ巻数はその平方根即ち、

であり、巻数を3.55倍にするだけで同じ特性が得られるわけである。

即ち、3.55倍というならばボビンなどの構造を僅かに改良するだけで簡単に実現できる。

このようなところから、原判決では「外部O型コアがあることにより、コアが棒状の中心コアのみで構成されたトランスとは,異なる磁路が形成され,結果として磁束の漏洩の程度に影響を与えていると認められる。」

と判示し、

「したがって,被告製品における外部コア3が,中心コア2に対して,単なる付加的なものであるということはできない。」

という結論を導いた。

しかし、これらの結論は「外部コアの透磁率が空気よりも3000倍も大きい」という認識に基づいて得られたものであり、これが実効透磁率12.6倍であるならば、たとえ「異なる磁路が形成される」とはいっても致命的な違いとは言えず、それらの影響は巻線を僅かに増減するだけで補正できる程度の影響である。

これにより、「単なる付加物なものであることはできない」とした判断は明らかに異なるものとならざるを得ない。

したがって原判決は外部O型コアの影響を大きく見誤ったものといえ、事実誤認と言わざるを得ない。

さらに、磁束漏れの本質である漏れ磁束に関してその実効透磁率を測定すれば原判決の誤りはさらに明確になる。

 

(4)乙第17号証に基づいた被控訴人製品の実効透磁率

被控訴人自ら提出した証拠の中から、漏れ磁束に対する実効透磁率は3.01倍と結論付けられる。以下説明すると、

 

(イ)外部O型コアによる漏れインダクタンスへの影響

まず、トランス磁束漏れの本質は漏れインダクタンスであり、漏れインダクタンスは本件明細書には「誘導性出力」または「誘導性」と記載され、明細書全体において該当する記述は7箇所ある。本件特許技術の本質的部分でもある。

また、本件の判断はあくまでも明細書に基づいて判断されなければならないのは言うまでもない。

この漏れインダクタンスが棒状コアのみの場合と、外部O型コアのある場合ではどのように変化しているかを見ると次のような知見が得られる。

二次巻線漏れインダクタンス(リケージインダクタンス)

O型コアなし

76.06mH

O型コア付き

229.1mH

 

ここから、外部O型コアの漏れインダクタンスに対する実効透磁率を求めることができる。

即ち、外部O型コアの実効透磁率は3.01である。

 

(ロ)漏れインダクタンスに対する実効透磁率が3.01である

この結果は極めて合理的である。

なぜならば、漏れインダクタンスを構成する漏れ磁束とは、電気工学・電磁気学の定義によれば、一方の巻線に鎖交し、他方の巻線に鎖交しない磁束のことである。

一方に鎖交し、他方に鎖交しないということは、それらの磁束は必然的に巻線下のコア→空気中→コア→巻線下のコア、と通り抜けて一周することになり、かなりの部分で磁束が通りにくい空気中を流れることになる。(図2)

 

テキスト ボックス:  
図2

したがって、磁束が通りやすいコアの部分による寄与が少なくなるために、その実効透磁率はたかだか3倍にしかならないわけである。

 


(ハ)実効透磁率3倍についての解釈

前にも述べたように、本件特許技術の本質部分は漏れインダクタンスであり、その漏れインダクタンスに対する外部O型コアの磁気性状即ち実効透磁率は3.01倍である。

さきに述べたように、3倍という値はトランスの設計・製造にとって大きな数字ではない。

同じ値を得るために、巻数を調整するとするならば、即ち、

であり、巻数を1.73倍にすれば得られる値なのである。

 本件特許技術の本質部分は漏れインダクタンスであり、漏れインダクタンスを中心に外部O型コアの影響を解析すればその影響は非常に小さいものでしかないことがわかる。

 

(ニ)漏れ磁束に対するO型コアの結論

したがって、より本質的な部分「漏れ磁束」に対して外部O型コアの影響は僅かなものであるということが数値的に、それも被控訴人提出による証拠の中から証明された。

これらから、外部O型コアによる影響を「空気よりも3000倍も(磁束が)通りやすい」とした原判決は明らかに誤りであり明らかな事実誤認である。

原判決は、「たかだか3倍しか通りやすくない」と改められなければならない。

それに伴い再度判断するならば外部O型コアによる影響は少ないと判断されることは明らかであろう。

 

3.     乙第16号証について

乙第16号証実は控訴人主張を大幅に認めたものである。

乙第16号証の意見書において(工学院大学森安教授(博士(工学))は、磁気漏れの指標の一般論について述べているが、これについて詳細な説明をする。

この意見書は原判決における被控訴人側証拠として提出されたものであるが、記述された見解の大半はむしろ控訴人主張を裏付けているものであり、一部言い回しを除き控訴人側証拠と言っても過言でない。

個別に詳細に述べると以下のようになる。

 

(1)「3.棒状コアのみの磁気特性はIO型コアの磁気特性と大きく異なる」について

(イ)「磁気特性が大きく異なる」とはどういうことか

乙第16号証の記述を参照すると、「磁束性状は同一とみなすことはできない」とあるが、この点についても同一と見なす必要性は全くなく、それが数値に具体的にどのように反映されているかが重要である。

また、「磁束分布が異なる。」と述べる点についても同様であり、磁束分布が異なっているとして、具体的にどの磁束が異なっているのかが重要である。

以下、これらの点について乙第16号証は被控訴人提出書面ながらむしろ控訴人の主張を積極的に裏付ける記述がなされているので解説する。

(ロ)「4.結合係数kがトランスの疎または密結合を示す指標である」について

すなわち、補数である「1-k」もまた疎または密結合を示す指標である、という意味になる。

乙第16号証記述を否認しているのではなく、両論成立に矛盾は無い。

1は定数であり、kを述べることも1-kを述べることも同義であることは数学的に否認の余地は無い。

この後の記述においても同じ事象の単なる言い換えが続く。つまり、

1.        「すなわち、二つの巻線はkの値が大きいほど密結合しており、小さい程磁気的には疎結合している」について

この記述については即ち、「二つの巻線は1-kの値が小さい程密結合しており、大きいほど磁気的に疎結合している、と述べることも同義である。どちらの表現が磁束漏れを直接的に表わしているかという単なる言い回しの問題だけである。

2.        「この結合係数の値が小さい程、相手巻線に鎖交しない磁束、すなわち、漏れ磁束が多くなることを意味する。」について

この記述についても同様であり、「即ち、この1-kの値が大きいほど、相手巻線に鎖交しない磁束、すなわち、漏れ磁束が多くなることを意味する、」という記述と同義である。

むしろこの記述の方が磁束性状一般について直接的な表現と考えられる。

3.        「変圧器巻線において、磁気的に「疎結合」あるいは「密結合」といった場合、一般には上記結合係数の大小を意味していると考えて良く」について

この記述についても「変圧器巻線において、磁気的に「疎結合」あるいは「密結合」といった場合、一般には上記結合係数の1-kがその大小を意味していると考えて良く」」と記述しても全く同義である。

4.        漏れ磁束量を決定する漏れインダクタンスは・・・・・」について

即ち結論はそのとおりであり、漏れ磁束量を決定するのは漏れインダクタンスである。

したがって、この記述はまさに原判決控訴人主張をそのまま支持したものである。

そして、漏れインダクタンスの値と漏れ磁束量との関係は、その後の森安氏の記述において数値的に自らさらに明確にしている。

5.      「すなわち、磁束量φはインダクタンスLと電流iの積として、φ=L×i として示される。」について

これによって、森安氏が自ら数値的に明確にしており、これは原審の控訴人主張をほぼそのまま支持している。

即ち、漏れ磁束量は電流に比例しているということである。

漏れインダクタンスLと漏れ磁束φは比例し、iが大きければφは大きい。

さらに言うならば、原判決は「それにより負荷が大きくなる(抵抗が小さくなる)際に端子出力電圧を低下させる働きをする漏れインダクタンスを形成する。」と関連技術を引用し、判示したが、その記述とも一致するものである。

抵抗が小さくなるとは即ち電流が大きくなることなのであるから、原判決における当該の引用部分はまさに控訴人主張「磁束漏れの指標は漏れインダクタンスと負荷との関係で判断する」を支持するものであって、原判決の判断の裏付けとして引用されていることは理解しがたい矛盾である。

当該部分を引用するならば原判決は控訴人主張をむしろ認めなければならない。

原判決は当該記述の意味を理解せず、漫然と引用したものとしか考えられず、明らかに工学的な意味において矛盾している。

6.       「一般的にはトランスでは定格負荷電流が流れた時に漏れ磁束量の大小を問題にすることが多く」について

これは即ち控訴人主張を完全に支持するものである。

7.        「漏れ磁束量が多いということは、漏れインダクタンスが大きいことを意味する。」について

これもまさに控訴人主張を支持するものである。

8.       「漏れ磁束量が多いということは、自己インダクタンスのうちで漏れインダクタンス成分が相対的に多くなることを意味し」について

さらに控訴人主張を認めている。

9.        「結合係数の式でわかるように結合係数が小さくなることを意味する」について

言い換えれば即ち「結合係数の式で1-kが大きくなることを意味する、」と同義である。

 

このように森安氏の意見書は総論として、磁束漏れの指標は漏れインダクタンスであることを明確に述べているのである。

漏れインダクタンスと結合係数との関係はといえば、両者は数式で結合され、関係は明確である。

磁束漏れの指標として結合係数で検討することは一概に誤りであるとはいえないが、それはあくまでも間接的な手法であって、実用的には漏れインダクタンスで検討するべきである。即ち、結合係数が磁束漏れの間接的指標であり、漏れインダクタンスが磁束漏れの直接的指標であるということである。

森安氏は「よって結合係数が磁束漏れの指標である」と結論付けているが、この記述は単なる言い換えであることは以上の説明により明らかであろう。

磁束漏れの指標について、それが結合係数であるか、漏れインダクタンスであるか、争う問題ではない。双方とも磁束漏れの指標である。森安氏も磁束漏れの指標が漏れインダクタンスであることは否定していない。

 

念のために以下補足するが、原判決では、結合係数の値が0.9乃至0.97であると磁束漏れが少ないという印象を持っているようである。しかしながら、森安氏曰く「自己インダクタンスのうちで漏れインダクタンス成分が相対的に多くなることを意味し」なのであるから、これを式にすれば、

漏れインダクタンス=自己インダクタンス×(1−k)

ということであり、たとえ結合係数が大きくても(即ち1-kが小さくても)二次巻線の自己インダクタンスが十分に大きければ漏れインダクタンスの値も大きくなることはこの式の関係から明らかである。

控訴人製品(Iコア+外部Iコア)と被控訴人製品(Iコア+外部ロの字コア)は漏れインダクタンスの値で比べれば似たようなものである。

 

 

漏れインダクタンス(JIS)

漏れインダクタンス(電気学会)

原告製品

 236mH

 

被告製品

256.7mH

 

 

したがって、両者とも漏洩磁束性の昇圧トランスであり、磁束漏れが少ないとは言えない。

即ち、結合係数が大きいとは相互インダクタンスの成分が大きいことを示す。

漏れインダクタンスに着目してみると両者に大きな差はない。

したがって、原判決が結合係数の値が0.9乃至0.97であることを根拠に磁束漏れが少ないと判断したのは誤りである。

 

4.     波形分析結果と図1との矛盾

(1)磁束の模式図について

テキスト ボックス:  
図3 乙第16号証意見書図1
 森安氏意見書
テキスト ボックス:  
図4 本件実測結果

乙第16号証意見書において、「EE,EI型及びIO型コアを持つトランスでは、大部分の磁束は空気中を通らずにコア材で作る磁気回路を流れてループ回路を形成することができるため…」と述べるが、これはあくまでも一般論であって、本件の場合の実測結果はこの意見書と矛盾する。

 


結論を述べれば本件では実測により図4のようにさらに大きな磁束漏れが生じていることが認められる。

これが本件の技術的特長である「密結合/疎結合」の構成である。

以下実測結果を交えて詳細に解説する。

 

磁束の実測は中心コアの周りに磁束検出コイルを設けることにより実測が可能である。

磁束検出コイルに発生する電圧は磁束の時間的変化に比例するという、

テキスト ボックス: コイルに発生する磁束
       
磁束φが1秒間に1ウェーバー変化すれば、コイルには1ボルトの電圧が発生する。
即ち、発生する電圧は磁束の変化を直接的に表すものとなる。

ファラデー・ノイマンの法則に従う、ごく一般的な知識に基づくものである。

この磁束検出コイルを被控訴人トランスの「連続した一本の棒状コア」に沿って写真のように4つ取り付け、磁束性状の実測を行った。

 

写真1

 

これをインバータ回路の動作状態において、各コイルPabcに発生する電圧を観測したものが以下の写真である。

写真2

これを、詳細に分析したものが、以下の図である。

図5

卑近に述べるのであれば、磁束漏れがなく、ほとんどの磁束がコアを流れるというのであれば、このようにp点、a点、b点、c点で波形が異なるということはあり得ない。

上記の例は顕著な磁束漏れが生じていることを示している。

参考までに、磁束漏れが生じていない場合の波形を比較のために示す。

 写真3(詳細は甲第16号証を参照のこと)

即ち、既に第二準備書面において提出しているが、精密に分析した第二準備書面の図1に基づけば、P点で観測された磁束をSINθとした場合、a点で観測される磁束は0.47SIN(θ-66°)であることが確認される。

 




一つのSIN(θ−x)の波形は二つの正弦波SINθ波形とCOSθ波形の合成で表すことができる。

これは、高等学校で履修する三角関数の加法定理に基づいている。

観測されたSIN波をSINθとCOSθに分解すれば、そのSINθの係数はP点で観測された磁束のうち何%がa点,b点,c点に到達しているのかを表している。

これにより、密結合、疎結合の割合が数値的に明瞭になる。

以下、具体的に計算すると、ここで、SINθで表される値が、P点で観測された磁束のうちコイルa,b,cに到達して磁束の割合である。

コイルa                          

同様にコイルb、cも同じように解析すると、

コイルb                          

コイルc                          

 

即ち、P点で観測された磁束のわずか19%足らずしかa点に達していない。

残りの81%はa点に到達する前に漏れているのである。

さらにb点を見ることによりさらに重要なことがわかる。

b点にはもはやP点で観測される磁束成分は達していないのである。

従前漏洩磁束と比較して極端な漏れと言わざるを得ない。

そればかりではない。数値で厳正に示されるとおり、b点ではそれどころか、14%もの対向する磁束が発生している。

b点はP点から見て完全に疎結合しているのである。

さらに、c点では35%もの対向する磁束が発生していることになる。

 

したがって、乙第16号証にある図(図3)の磁束概念図は本件の実態を表したものではなく明らかに誤りである。

この図はそもそも実測に基づいたものではない。

乙第16号証図1は一般論により想像に基づいて描かれたものであり、本件の実測結果と矛盾する。仮に磁束漏れがない、または少ない場合というならば写真3のような実測結果が得られているはずである。

仮に写真3のような実測結果が得られた場合であれば、磁束性状の図はまさに図3で良い。

しかし、実測の結果は写真2である。したがって、磁束性状は図4である。

 

(2)補足、

SIN成分の説明のためCOS成分は図2では省略したが、数値を見ても明らかなように、COS成分についてもP点では0であり、a点→b点→c点と行くにしたがい、0.43、0.68、0.75という具合に一次巻線から離れた遠端部に行くにしたがって二次巻線上から発生した漏れ磁束が増えているのは明らかであり、漏れ磁束、即ち二次巻線とのみ鎖交し、一次巻線と鎖交しない磁束成分について着眼してみても、これら漏れ磁束性分が一次巻線から離れた二次巻線遠端部から生じていることも明白である。

 

(3)まとめ

EE,EI型及びIO型コアを持つトランスでは、大部分の磁束は空気中を通らずにコア材で作る磁気回路を流れてループ回路を形成することができるため…」、

と述べている当該の記述部分も明らかに事実と異なり矛盾している。

ほとんどの磁束(約81%)はa点に達する前に既に漏れ出している。

 

繰り返しになるが、コアがループしているか否かにおいて、磁束性状に与える影響はたかだか12倍または、漏れ磁束に対しては3倍の効果しかない。

このことは、EE,EI型及びIO型コアだからといって磁束が漏れ出していないということはあり得ず、特に漏れ磁束成分に対しては本質的な違いを持たない。

 

(4)補足、EEまたはEI型コア形状について

また、EE型コア形状は製造技術上の都合によりコアが二次巻線下で分断されているものであり、理想的に接合される場合は本件密結合/疎結合の構成に影響を与えることは少なくなるが、一般的には理想的な接合が難しく、本件特許技術から見た場合、改悪発明に該当するものである。

EI型コア形状については、本件特許発明出願時点ではEI型といえばE型コア中心部の軸足が短い「標準型」と呼ばれるものしか存在していなかった。

また、現時点においても極端に中心の軸足の長いE型コアは製造上困難なため実用化されていない。

E型コアの中心軸は「連続して一本」であり、曲がりなどがなければ「棒状コア」を含む形状と考えられ、作用・効果を詳細に比較して差異がなければ均等の範囲に入るものである。

また、外部コアに該当するその他の部分による磁束性状への寄与は3倍または12倍程度であり、大きな影響を持つものとは言いがたい。

 

以上

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