日立フェライト電子 山本 陽一
youichi yamamoto

※日立フェライト電子梶@技術開発部
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1.    はじめに

 近年,液晶テレビジョンの需要が急速に伸びるとともに,液晶用大型バックライトと,液晶用大型バックライトを点灯するためのインバータ回路に対する需要も同様に急増している。一方,インバータ回路システムについてはいまだ数々の問題を抱えており,これらの市場要求を支えるための水準としては満足の行く状態に至ってないとされている。
 そこで,我々はこれらの市場要求を満たすための新たなシステムの開発が必要と判断し,今までの多灯用インバータ回路システムを全面的に見直すこととなった。その結果,従来とは全く異なる着眼の冷陰極管並列点灯システムを開発して提案することとなったものである。


図1 コレクタ共振型回路


図2 他励共振型回路


図3 多数の他励共振型回路

2.大型面光源用インバータ回路の現状

 現在の冷陰極管の点灯回路,即ちインバータ回路システムにおいては旧来の回路であるコレクタ共振型(コレクタ共振型Royer)回路と,高効率の他励共振型が市場を二分して採用されている。コレクタ共振型回路はローコストであるが効率はあまり良いものではなく,発熱も多い(図1)。一方,他励共振型は高コストであるが高効率で高性能である。(図2)また,圧電セラミクスにより昇圧を行う圧電型なども高効率であるがコストが高いために普及が困難である。これらのインバータ回路技術はノートPC等で養われたものである。
 ところで,大型面光源おいては,多数の冷陰極管が用いられているため,これらを並列点灯しなければならないという新たな命題がある。(図3)現状では大型面光源用インバータ回路においては上記のノート
PC等で養われたインバータ回路技術がそのまま使われており,多数の冷陰極管を点灯させるために,冷陰極管の灯数だけインバータ回路を並べている。このようなところからインバータ回路が大規模のものとなり,インバータ回路システムに関しての抜本的な改革が求められていた。
 その中でも,特に各冷陰極管に流れる管電流の均一さがバックライトの寿命にとって重要であるところから,細菌は高効率の他励共振型回路を使用して一灯ずつ制御用ICにより管電流制御をかけるという,非常に贅沢な構成を取らざるを得なっており,インバータ回路のコスト問題が重要問題となっていた。
3.冷陰極管の並列点灯

これらの問題に関して画期的な解決手段を提供するのがZAULaSZip as Uni-Lamp System)である。
 大型面光源には多数の冷陰極管が使用されているが,冷陰極管は並列点灯できないので従来はそれぞれの冷陰極管ごとに電子安定器-インバータ回路が必要であった。これらの冷陰極管の多数点灯を行う場合,それらをただ単純に並列接続しただけでは並列点灯ができないのである。これは,冷陰極管の特性が負性抵抗,即ち電流-電圧特性において,電流が増えるほど電圧が下がるという性質を有するからであり,並列接続すると並列に接続された冷陰極管のうちの一本のみに電流が集中して他の冷陰極管が点灯しないという現象を起こすからである。
 そこで,一般には昇圧トランスと冷陰極管との間に冷陰極管の負性抵抗を十分に上回るような適切なリアクタンスを配置し,冷陰極管とリアクタンスとの合成インピーダンスが正抵抗になるような状態にしてから並列接続を行うことによって並列点灯を可能としている(図1)。これらのリアクタンスはバラスト(安定器)と呼ばれている。
 しかしながら,これらの並列点灯方式では冷陰極管に対して直列にLCによるリアクタンスが接続されるために,放電に必要とされる電圧は高くならざるを得ない。
 例えば図1の例においては冷陰極管の管電圧(定常放電電圧)を約700Vとして,これにリアクタンス(安定器)にかかる電圧が加わるために,合成の電圧は1500V以上となり,非常に高い電圧が必要となることがわかる。大型面光源用冷陰極管においては冷陰極管の定常放電電圧は1600Vに達するものもあり,これにバラストのリアクタンスにかかる電圧を加算すると2kVを超えることになる。
 従来は,インバータ回路においてはこのようなリアクタンスによる回路が主流であったが,ノートPC用のインバータ回路のように要求電圧が低い場合においても,これらの高電圧はかなりの問題を引き起こしていた。つまり,高電圧を供給するための巻線トランスにはかなりの負担がかかっていたため,トランス二次巻線の経年変化やレイヤショートなどの主な発生原因の一つとなっていたものである。
 そこで,近年急速に採用され始めた回路が他励共振型回路(図2)であり,漏洩磁束型の昇圧トランスの漏れインダクタンスと二次側容量とを共振させることにより高い変換効率を得るとともに,漏洩磁束型トランスの漏れインダクタンスをバラストのリアクタンスとして利用して放電管の電流を安定化させるものである。この方式はトランスの二次巻線にかかる電圧が冷陰極管の電圧と均しくなるため,トランス二次巻線にかかる電圧が低くなり,レイヤショートなどの問題が少なくなる。
 他励共振型方式が普及することにより,従前,液晶バックライトに関する故障はインバータ回路によるものが主流であったところ,本方式が採用され始めた1996年前後を境にインバータ回路による故障は急減し,最近では冷陰極管の寿命が先に問題となるようになってきている。
 このようにメリットの多い他励共振型回路であるが,この他励共振型回路は冷陰極管一本あたりに一つの漏洩磁束型トランスと制御回路を必要とし,大型液晶バックライトに採用するには回路規模が大きなものになることが問題となっている(図3)。しかしながら,液晶テレビジョンのように家電製品として各家庭に設置されるためには寿命の問題は重要であり,6万時間以上を保証せねばならないものとされている。このため,コストに問題を抱えながらも,このような多数の他励共振型回路を採用せざるを得ないものとなっていたのである。

4.    ZAULaSによる均等分流回路
 そこで我々はこのような点灯回路を見直し,抜本的な改革を図るべく開発したものがZAULaSCurrent Distributor(電流均等分配モジュール)である。写真1は8灯,10灯,12灯,16灯の分流器モジュールである。ZAULaSは複数の電流トランスを集積したもので,一つの電流トランスはCellと呼ばれ2本の冷陰極管を並列点灯する。
原理について一般的に最も簡単な線型モデルを用いて説明をすれば図4のようになる。
 しかし,解析を進めたところ,上記のモデルでは完全でないことがわかり,実際のZAULaSにおいてはさらに非線形モデルのシミュレーションにより,小型化に最適化した設計を行っている。図5は実際に冷陰極管をバックライトに組み込んだ際の電圧−電流特性であるが,冷陰極管の特性は単体で測定した場合とバックライトに組み込んだ場合では近接導体の影響により特性が大きく変化する。
 ZAULaSでは冷陰極管のこのような特性の変化に着目し,冷陰極管の負性抵抗特性を管理することによって最適な分流特性を保証している。そのため,ZAULaSにおいてはバックライトメーカーからの電圧−電流特性の提示を受けることが不可欠であり,バックライトメーカー,或いは液晶メーカに理解を求めている。

警告:ここへ来て(2005年),通信用チョークを流用したとみられる台湾製品が出回る兆しがありますが,上記解説のように,ZAULaSはバックライトの負性抵抗に対して分流特性を保証するものです。
 バックライトの負性抵抗を管理せずに,分流性能の品質保証は不可能です。
 当該の台湾製品は,負性抵抗を管理せずに販売しようとしておりますところ,分流に関する品質保証はもとより存在しないものとお考えいただきたいと思います。
(Greatchip注)


写真1 ZAULaS の電流均等分配モジュール


図4 従来理論による分流原理


図5 冷陰極管(CCFL)電流電圧特性を
管理した新たな分流原理


図6 分流回路の構成

 ZAULaS Current Distributor(電流均等分配モジュール)ではこれらのCellをピラミッド状に集積することで,多灯点灯回路を実現している(図6)。これらはCellの組み合わせによって何本の冷陰極管に対しても自由に均等分流を行うことが可能である。


図7 ZAULaSの構成


5.ZAULaS
の効果

 ZAULaSを採用することにより,多灯用インバータ回路の構成は非常にシンプルなものになった(図7,写真2)。即ち,多数の冷陰極管をあたかも一本の大電力の冷陰極管のように束ねる(Zip as Uni-Lamp)ことにより,たった一つの他励共振型インバータ回路で駆動することができるようになったわけである。これによって大幅なコスト低減と効率の改善を同時に実現することがでるようになった20インチ12灯のバックライトにおけるZAULaSの効果を確認したものが以下の結果である。12灯の管電流のバラツキが最大でも3%以内に収まるという好結果を得ている。(表1)

表1

管電流(単位mA

Lamp1

Lamp2

Lamp3

Lamp4

Lamp5

Lamp6

Lamp7

Lamp8

Lamp9

Lamp10

Lamp11

Lamp12

6.95

7.01

7.11

6.91

6.92

6.95

7.02

7.03

6.91

7.03

7.11

7.05







写真2 簡素化されたインバータ回路

この値は多数のインバータ回路を並べ,個々の冷陰極管に対して制御用ICにより管電流帰還をかけた場合の精度(±5%以内)よりも良い結果である。また,IC制御との比較であるが,IC制御による管電流のバラツキの精度は主に帰還抵抗の値の誤差に依存する。通常は5%のものが用いられるために誤差は5%前後となる。
 一方,ZAULaSのこのような高精度の分流特性は,電流トランスの性質によるものである。トランスというものは各巻線のリアクタンス(インダクタンス)の絶対値の精度は悪いものの,巻線間の相対誤差は非常に少ないという性質を持っている。ZAULaSの分流回路モジュールはトランスのこういった性質をフルに活用しているものである。また,ZAULaSそのものの発熱はごく少なく,効率を害する要素にはならない。したがって,インバータ回路システム全体の効率は主として昇圧トランスの損失に依存することとなり,また,この昇圧回路には電力が特に集中するため,効率の高い他励共振型回路の採用を推奨している。他励共振型を採用した場合におけるシステム全体の効率は非常に高くなり,発熱のほとんどないインバータ回路システムが可能である。
 加えて,このような分配器モジュールは独立したモジュールとして組み立てられているところから,バックライト上のレイアウトは写真2で示されるように冷陰極管の電極の近傍にレイアウトされることが可能となった。電流の均等分配に関しては冷陰極管の電極の近傍にレイアウトされることが効果的であり,冷陰極管から離れた位置にレイアウトされる場合に比べて遥かに良い結果を得ることができる。これは,インバータ回路から冷陰極管までの配線が寄生容量の影響を受けやすいという性質があるからである。従来のインバータ回路ではこの配線が長いものが多く見受けられた。ZAULaSの場合,電流均等分配モジュールを冷陰極管の電極の近傍に配置することにより,寄生容量の影響を少なくすることができる。
 将来的にはこれらの電流均等分配モジュールはバックライトシステムの一部としてバックライト筐体側に組み込まれることが理想であると考えられる。仮にそのような構成が実現されると,大型液晶用バックライトはどのような灯数であっても,もはやインバータ回路の構成に影響することはなく,バックライトは一つの大電力の冷陰極管と等価なものとして扱うことができ,バックライトの総合特性としての電流−電圧特性を仕様として提示するだけで良いことになる。
 また,ZAULaSの電流均等分配モジュールは各冷陰極管の管電流が寿命末期まで均等であることを保証する。これにより,従来,多灯用バックライト−インバータシステムの最終組み立て工程で行われていた管電流の調整工程を不要とすることができるようになったことも大きな改革の一つである。


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