共振電流位相帰還を取り入れた新電流共振型のFull Wide Range Inverter回路

1.共振電流位相帰還とは


今までのCCFL(冷陰極管)用インバータ回路用のICのほとんどが、O2Micro社、およびミネベアとグレートチップジャパン(旧テクノリウム)が共同開発した「他励共振型」という技術を基礎にして多くのバリエーションが開発されてきました。
しかしながら、他励共振型は発振回路のCR定数で決まる一次側発振周波数(駆動周波数)と、小型共振トランスの漏れインダクタンスと二次側共振容量で決まる二次側共振周波数とを、回路設計エンジニアがそれぞれ設定するものであって、設定の仕方を間違えると発振周波数と二次側共振周波数とがマッチングせずに、共振トランスが発熱したり、スイッチング・トランジスタが発熱したり焼損したり、いろいろと取り扱いに注意が必要なものでした。
共振周波数ずれに対しては何も対策がなく、ICが調整してくれることはありません。他励共振型は、CCFLの設置条件が変わって二次側共振周波数が大きく変わってしまうと、不点灯になったり、またインバータ回路が故障したりなど、インバータ回路の信頼性に大きな問題が生じていました。
この問題を解決するのが共振電流の位相帰還(PAT.)です。

2.共振周波数ずれによる問題

開発現場でたびたび繰り返されてきたことですが、新製品の液晶のパネルが出荷されるたびに専用のインバータが必要になり、インバータ回路基板が液晶パネルごとにカスタマイズ(専用化)されて、メーカー側では多くの種類のインバータ回路を管理しなくてはならなくなります。液晶の外形とデジタル駆動信号のインターフェースの方はDELLコンピュータがDisplay Searchを通じて呼びかけることにより規格統一が進んだのですが、バックライトの電気特性の方は置き去りになりました。
バックライトの電気特性はバックライトごとに異なり、CCFL本数が同じだと言うだけで、異なった性質の液晶バックライトに対して安易にインバータ基板を取り付けると製品回収にもなりかねない大事件を起こします。
また、液晶の新製品が間に合わないと、CCFLだけが液晶メーカーから送られてきて、それに対してインバータを調整してくれという無理を言われます。
せめて液晶バックライトに組み込んだ状態で、サンプルを送ってくださいというお願いを液晶メーカーに対して繰り返し行ってきた結果、2002年頃からは液晶メーカー側も協力的になり、バックライトだけの試作品を出してもらえるようになり、このような開発モデルが定着してきたところです。
しかしながら、組み立てメーカーではまだこの意味が理解されず、高圧配線同士を結束したり、金属板にテープ止めしたりした結果、寄生容量が大きく変わって二次側共振周波数がずれ、その結果初期不良が多発してインバータの再調整のために何度も走り回らされたりしました。私たちはそういう問題を目の前で何度も経験してきたわけです。
そのため、このような煩雑な問題を自動的に解決するものが必要であると確信するに至りました。

3.自動周波数調整には複数の方式が考えられる

本来ならばCCFL周辺のこのような気難しい問題に対しては早くから取り組まなければならなかったのですが、ここ数年の新興国台頭による情報漏れが厳しく、情報公開を中断していたため、液晶バックライトの電源関連技術の発展が中断してしまった感があります。この間に液晶バックライト用のトランスは発熱が大きくなり、また肥大化したものになり、時代が逆戻りしてしまったかのようです。このような問題を解決するには自動周波数調整(共振電流位相帰還)が必要ですが、その方法には複数あります。複数の方式のうちの一方式はMPS社(Monolithic Power Systems社)によって既に実用化され、ノートPC用のインバータ回路に採用されてきました。
今回、我々が採用した方式は他の方式です。我々は二次側共振回路の共振コンデンサに生じる共振電流の位相に着目し、この電流位相を制御回路に帰還することによって、常に共振トランスの最適条件で駆動することに成功しました。(TG3695 Data Sheet

4.電流位相帰還の効果

その結果、冷陰極管の長さが5倍近く変化しても、それぞれの負荷に対して常に最適条件で駆動することができるようになり、共振トランスが劇的に小型化され、発熱も少なくなり、効率も改善されました。
一灯の試作品の性能をご覧ください。(Full Wide Range Inverter 回路
とくにご注目いただきたいのがトランスの温度とスイッチング・トランジスタの温度です。最近のインバータ回路でこれほど負荷条件が変わってもここまで常に温度が低いものは存在していません。
また、CCFLの設置状況の変化にもたいへんに強くなり、安定で安全なインバータ回路が実現されました。

5.他社の取り組みとの比較

我々が現状で手に入れられるCCFL制御用ICはMPS社を除いてほとんど全てが他励共振型と言っても過言ではありません。最近発表されたNXPセミコンダクターズのUBA2071はZVSである(つまり電流共振型である)ということで早速期待して評価してみたのですが、プレス発表では以下のとおり、明らかに自動的にZVSを制御するという触れ込みでありますが、
NXPが狙う汎用半導体市場とは→
「GreenChip」の生産数が4億個を達成→
実際には自動的にZVSを制御する電流共振型ではありませんでした。
技術的なカテゴリーとしてはハーフ・ブリッジの他励共振型ということになります。
せめてNXPがうたうHARDSWITCHING DETECTIONが自動ZVS制御回路として働いてくれればよいのですが、この回路は異常検出をするのが目的であって制御することが目的ではないようです。

現実にはこの分野ではなかなか良いICが見つからないというのが実状でした。安全で誰もが簡単に扱えるICがほしいので、しかたがありませんから作ってしまいました。

NTS3733,電流共振型IC→
このICの成果はNXPやInternational Rectifierにも見てもらいたいと思います。


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